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大阪高等裁判所 昭和54年(行ケ)2号 判決

原告

喜元武次

被告

大阪府選挙管理委員会

右代表者委員長

松井行造

右指定代理人

谷口文夫

外三名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告主張の本件選挙が昭和五四年四月八日に執行されたこと、右選挙が無効であるという原告の異議が被告委員会によつて棄却され、右棄却決定同年五月一九日原告に送達されたことは、いずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告が本件選挙区の選挙人であり、かつ同選挙区における被選挙人として立候補したが、その得票数が五一六票であつたこと、最下位当選者の得票数が一万九、九四六票であつたことが認められ、〈る。〉

二原告は、本件選挙における選挙人名簿には、昭和五四年一月七日までに他府県から転入した者も登録されるべきであるのに、昭和五三年一二月一三日以降の転入者には被登録資格がないとして、これを登録していない違法がある旨主張するので判断する。地方自治法一八条、公職選挙法九条二、三項、二一条一項によれば、選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年令満二〇年以上の日本国民で、その者に係る当該市町村の住民票が作成された日から基準日までに引続き三箇月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行なうものとされているところ、本件選挙における基準日は、「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律施行令」(昭五三政令三六五号。以下、たんに特例政令という)三条によれば府の議会の議員の選挙にあつては昭和五四年三月一二日現在によるものとされており、従つて前示要件を充たすためには昭和五三年一二月一二日以前に当該市町村に転入してその住民基本台帳に記録されていることが必要であるから、原告のこの点に関する主張は失当である。

三原告は、大阪市内の他区において昭和五三年一二月一二日以前から住民基本台帳に記録されていた者で、昭和五四年三月一二日までに平野区への転入届出をした者に選挙権を与えたのは違法であるというので判断する。地方自治法二五二条の一九第一項の指定都市の区域内に住所を有する期間については公職選挙法二一条一項、同法施行令一四一条の二第一項により、同一指定都市内の区の間の住所移転があつても、これを通じて計算され、たんに登録の移し替えがなされるにすぎないから、前示のように本件府会議員選挙において昭和五四年三月一二日現在を基準として指定都市である大阪市内の他区から本件選挙区への転入者を選挙人名簿に登録したのは、違法ではなく、住民基本台帳法八条に違反するものでもない。したがつて、原告のこの点に関する主張も失当である。

四原告は、本件選挙における選挙権取得の年令計算については、選挙日たる昭和五四年四月八日に満二〇年に達する者を含まない旨主張するのに対し、被告は同日満二〇年に達する者も含まれる旨主張するので判断する。地方自治法一八条、公職選挙法九条二項によれば、日本国民たる「年令満二〇年以上の者」で引続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員の選挙権を有するものとされ、年令の計算については、年令計算に関する法律により、出生の日から起算し、民法一四三条を準用するものとされている。したがつて、一般的には満二〇年の始期については出生の日を一日として計算し、終期は二〇年後の出生の日に応当する日の前日の終了(正確には午後一二時の満了)をいうのであるが、被選挙権に関する公職選挙法一〇条二項において、年令は選挙の「期日」により算定すると規定されており、この被選挙権に関する規定は選挙権についても類推適用されると解すべきであり、また特例政令三条によれば、「選挙人の年令については選挙の期日現在により」算定する旨定められている。これらの規定の趣旨によれば、選挙権に関する公職選挙法九条二項にいう「満二〇年以上」というのは「満二〇年に達した時」または「満二〇年を超えるとき」等と異なり、満二〇年に達する日が終了したことを要せず、満二〇年に達する日を含むと解すべく、また別の見方をすれば、前示公職選挙法九条二項の「年令満二〇年以上」とは、選挙権取得の始期を定めるものであり、「満二〇年に達した時」または「満二〇年を超えるとき」と異なり、満二〇年に達する日をもつて選挙権取得の始期と定めた趣旨であるとみられるから、満二〇年に達する前示出生応当日の前日の午後一二時を含む同日午前〇時以降の全部が右選挙権取得の日に当るものと解することができる。したがつていずれにしても昭和三四年四月九日に出生した者は二〇年後の出生応当日の前日、すなわち昭和五四年四月八日の終了を待たないで、同日の始時から選挙権を取得すると解すべきである。これを本件についてみるに〈証拠〉によれば、本件選挙区においては昭和三四年四月九日の出生者一〇名が前記説示の住所要件も具備するとして、被告委員会がこれらの者を選挙権者に加えたことが認められ、右認定を妨げる証拠がないから、被告の右取扱に年令要件を欠く違法がないものというべきである。したがつて、原告の右主張は失当であつて採用できない。

五そうすると、原告の本件選挙無効の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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